
居酒屋のカスタマーサービスの向上とは
カスタマーサービスの向上とは、接客マニュアルを増やすことではなく、来店前・来店中・退店後の一連の体験を滑らかにし、再来店の理由を積み上げることです。特別な演出よりも、待たせない、迷わせない、がっかりさせないの三点を外さない運用が鍵になります。本稿では、中小規模の居酒屋でも今日から取り組める具体策を段階別に解説します。
来店前の体験を整える(予約・情報発信)
予約導線の一本化と即時返信
予約は電話・Web・SNSの三つが典型ですが、最終的にはひとつの台帳に統合し、重複や取りこぼしをなくします。Web予約は30秒で完了する入力項目数に絞り、送信後は自動返信で「予約内容・地図・キャンセル方法」を即送付します。即時性が安心感を生み、来店率が上がります。
分かりやすい情報設計と写真の更新頻度
営業時間、定休日、支払い方法、席のタイプ、喫煙可否、アレルギー対応の有無など、来店判断に直結する情報を先頭に配置します。季節メニューや価格の更新日を明記し、写真は最新の盛り付けで撮り直します。情報の鮮度が信頼の源です。
ここまで整うと、来店前の不安が解消され、当日の問い合わせも減ります。現場は電話に追われず、仕込みと接客に集中できます。
入店〜滞在中の体験を磨く
最初の90秒に集中するオペレーション
到着から着席、最初の一言、ファーストドリンクの到着までの90秒が満足度の土台です。入口付近の挨拶、荷物の案内、上着掛け、最初のおすすめ一言、卓上の使い方説明までを短い導線で行います。最初の一杯は会話を遮らない定型確認で素早く確定させます。
卓上UX(使いやすさ)の標準化
卓上の調味料、取り皿、箸、紙おしぼり、呼び出し方法の説明カード、QRメニューの置き方までを統一します。メニューは価格・提供時間・辛さ・アレルギー表示を一目で判別できる表記に揃えます。迷いを減らすことが、注文点数と回転率の両方を押し上げます。
来店直後の安心と使いやすさが確保できると、スタッフの声掛けは売り込みではなく「伴走」に変わります。お客様は自分のペースで楽しめ、結果的に追加注文が自然に増えます。
料理・ドリンク提供の最適化
キッチンとホールの同時刻基準
提供の満足度は「絶対時間」より「順序の納得感」で決まります。ドリンク先行、つまみ早出し、焼き物中盤、飯物ラストの基本配列を守り、遅れが出る料理は事前に告知します。配膳は席番・トレイ単位でまとめ、同卓同時到着を基本にします。
温度と食感を守る小さな工夫
揚げ物は網皿で蒸れ防止、冷菜は皿を冷やし、熱々は火傷注意の一声を必ず添えます。レモン別添・薬味追加など小さな選択肢を最初に提示しておけば、好みに合う確率が上がり「次回も同じで」と言われる定番化につながります。
提供設計が定型化されると、新人でも品質がぶれず、ピーク時の混雑感が緩和します。結果としてクレームの種が減り、レビューの星が安定します。
会計〜退店後のフォロー
会計の待ち時間をゼロに近づける工夫
レジ前の行列は最後の印象を悪化させます。テーブル会計やQR決済の活用、伝票の事前確認で会計時間を短縮します。混雑時は「お預かりトレイ」を増やし、領収書の要否は並んでいる間に確認します。
退店後の接点デザイン
次回来店の動機付けとして、期限付きクーポン、季節メニューの先行案内、記念日リマインドなどを用意します。レビュー依頼はテンプレだけでなく、担当者名を添えて人の温度を感じさせます。
退店後の接点は、広告より安価で効果が長続きします。来店履歴に基づくメッセージを適切な頻度で送ることで、無理な割引に頼らない集客が可能になります。
人材育成と評価指標
行動基準を“見える化”するチェック項目
挨拶の声量、目線、姿勢、トレーの持ち方、卓上の整え方、提供時の一言、下げ物の気づき、レジでの言い回しなどを10〜15項目に分解し、シフト前のミニチェックで可視化します。できていない点を責めるのではなく、次回に直す一点を共有します。
評価はNPSと再来店率で見る
アンケートの満足度点だけでなく、「知人に勧めたいか」を問うNPSと、30日・90日の再来店率を主要指標にします。指標は週次で全員に共有し、小さな改善を称賛し続けることが文化を作ります。
数値が共有されると、現場の判断が早くなります。「今日は常連多めだから早出し中心」「雨なので温かいメニュー推し」など、日々の最適化が自然と回り始めます。
テクノロジー活用の勘所
モバイルオーダーとPOSの連携
モバイルオーダーは回転率を上げますが、導入時は「声掛けが減る」副作用に注意します。POSと連携して提供時間を自動記録し、遅延の見える化に使います。画面上のおすすめは、在庫と原価率を加味した動的設定にして粗利を守ります。
CRMとメッセージ配信のルール作り
会員登録のハードルを下げ、初回はスタンプ1個で十分です。配信は頻度よりも関連性が命。来店曜日、飲む量、アレルギー情報などの属性に基づき、役立つ情報だけを短く届けます。
道具は目的を達成してこそ価値があります。現場の手間が増える機能は切り捨て、代わりに「待ち時間の通知」などお客様視点の機能に投資します。
クレーム対応と再来店への転換
24時間以内の一次対応を徹底
店内・電話・レビューいずれのクレームも、事実確認より先にお詫びと一次対応の期限を示します。「本日中に責任者からご連絡します」と約束し、連絡手段を必ず二つ確保します。
再発防止の可視化と特典の設計
原因は人ではなく仕組みで捉え、工程のどこで止まったかを明らかにします。次回使えるドリンク券や料理差し替えだけでなく、「次回はこの席を確保します」など体験価値でお返しするほうが満足度は高まります。
不満は、正しく扱えば強いロイヤルティに変わります。誠実な対応の記憶は価格よりも強い差別化要因になります。
小規模店でも今日からできる改善チェックリスト
1 予約フォームは入力5項目以内か
2 自動返信に地図とキャンセル方法が入っているか
3 最初の一杯は90秒以内に提供できているか
4 卓上の説明カードは読みやすいか
5 メニューに提供時間とアレルギー表示があるか
6 揚げ物に網皿、冷菜に冷皿を使っているか
7 会計の待ち時間を3分以内に収めているか
8 退店後3日以内にお礼メッセージを送っているか
9 行動チェック10項目を毎シフトで確認しているか
10 NPSと再来店率を週次で共有しているか
11 モバイルオーダーの遅延を可視化しているか
12 クレーム一次対応を24時間以内に完了しているか
まとめ:常連が増える店は“当たり前”を積み重ねる
居酒屋のカスタマーサービス向上は、奇をてらう施策ではなく、来店前の不安解消、入店直後の安心、提供品質の安定、会計のスムーズさ、退店後の適切なフォローという当たり前の積み上げです。今日の営業で一つでも「待たせない・迷わせない・がっかりさせない」を実現すれば、明日のレビューと席の埋まり方が変わります。小さな改善を毎日続け、常連に愛される店づくりを進めましょう。
